しかし、彼は策士ではない。
「無策の勇気を持つ者」だ。
世は時として、策士を讃える。
そして、策士のとった老獪なポーズ。パフォーマンス。
それを「さすが策士」だと言う。
しかし、彼は策士ではない。
監督が取った行動、笑顔、言葉。
その全てが、
「策」ではなく「本当のこと」だった。
ありのままの「本当の姿」だった。
作られた感情、見せかけの感情、結果のために必要な感情なのではない。
本当の感情。
本当の愛。
本当に「優勝したいんや」というその気持ち。
本当に勝ちたかった彼は、
本塁上でせめぎあった、中村豊、矢野輝弘の気持ちをそのままに、
その気持ちを解放した。
理不尽な判定に、
悔しさを爆発させた、
大好きで、
大切な、
かけがえのない、
彼のチームメイトのために、
没収試合になってもかまわない、と、
覚悟を決めた。
全て自分が責任を取る。
だからおまえらは我慢せんでええ。
さぁ、怒ろう!!
理不尽に対して思いのままに怒ろう!!
彼はチームメイトを抱きしめた。
本当の気持ちで抱きしめた。
おまえらは悪くないよ。
おまえら本当によく頑張ってるよ。
それやのに、あんなひどいことはないよなぁ。
こんなにも、ずっと一生懸命頑張ってきたのにな。
あんなにもひどいことばっかり起こっていいはずがない。
そんなことあってええはずないやないか!!
オレが、オレがなんとかしたる!!
だってオレは、監督やで!!
18分間の抗議。それは18分間の肯定。
すべての気持ちに対する肯定。
全部を肯定した彼は、
同点に追いつかれ、
マウンドへ登った。
監督になってはじめてのことだった。
そして・・・
笑った。
本当のことをわかちあうもの同士のみが見せる、
「本当」が溢れ出した
そんな笑顔だった。
いつも「本当」のかわいい抑えのエース。
強くなった抑えのエース。
大好きな人に、大好きだと言ってもらえた抑えのエース。
「本当の気持ち」で勝負する抑えのエースは。
「本当の気持ち」のまま「本当の抑えのエース」になった。
11回。
チームを支えてきた、
控えのキャプテン。
甲子園予選準決勝。
これまで出場機会がなかった控えのキャプテンに打席が回ってくる。
後輩のレギュラーを支え、
大声を出し、
チームを盛り上げ続けた控えのキャプテン。
背番号二桁の控えのキャプテン。
神様は頑張る人を見放さない。
夢の甲子園に向けて、
大きな大きな、
大きな大きな、
大きな大きな、
ホームラン。
高校生活、最初で最後のホームラン。
キャプテンのガッツポーズ。
3年間の思いをぎっしり詰めたガッツポーズ。
チームが手にしたもの、
それは勇気。
中村豊。
最高の「本当」を溢れさせ、ダイヤモンドをまわる。
ナゴヤ決戦、第二戦。
本当に「抑えたい」と思う気持ちは、世界一の2番を封じ込めた。
本当に「頼られた」4番バッターは、「ワシに任せろ」とホームランを打った。
本当に「我慢して」使い続けた2番バッターは、2塁ベース上で「本当の」笑顔を見せた。
本当に「速いストレート」は、速さと気持ちが融合したストレートだった。
そして、
指揮官の思う、本当の「大好き」は、
選手たちが理不尽に抱えた、本当の「憤り」を浄化した。
メイクドラマ
昔こんな言葉が流行ったっけ。
その頃そのドラマの脇役Tでしかなかった、タイガース。
今は堂々たる主役。
さらに、主役は教えてくれた。
本当のドラマは作られたものではない。
本当のドラマは生み出されるもの。
本当の気持ちから、生み出されるもの。
策士ではない彼の気持ちが生み出した、
本当のドラマを、
ぼくたちは見ているんだ。
世は時として、策士を讃える。
しかし、彼は策士ではない。
岡田彰布。
「策」を「愛」で制する男。
野球の神は、友を愛する者を、導かれし。
岡田監督ありがとう!!大好き!! blogランキングへ