2005年09月26日

赤星の13球

気持ちがプレーに直結する。

9回表、1点ビハインドの先頭打者、赤星。
ぼくが知る、赤星の打席の中で、
この打席は、最高の打席だった。
赤星という選手は、本当に素晴らしい野球選手だ。

べイルという投手は、そう簡単に打てる投手ではない。
ドラゴンズの岩瀬、タイガースのウィリアムスと肩を並べる、
左腕の抑えとしては一流の投手。

対する赤星。
何が何でも出塁したい場面、
一塁ベース上に立った赤星は、日本一の一塁ランナーとなる。

そのことにとても意識的な赤星。
カウントが2−2になったあたりだったか、
赤星は積極的にフォアボールを奪いにいったように見えた。
フォアボールを「選ぶ」のではなく、「奪い」にいく。

調子は悪くなかったベイル。力強い高めのストレート。
赤星に投じた初球は147kmを計時した。

左対左の対戦。
ウィリアムスが中日の福留を外角のスライダーで三振にしとめようとするように、
そこを攻められる可能性が非常に高いカウント。
赤星は、アウトローのスライダーをファールできるタイミングで待ち、
かつ、高目のストレートにも対応できる状態で待っていたように見えた。

「ヒットでなくていい。その両方をファールする」

ヒットにしようと思えば、そのどちらかに比重をおいて待たなければ打てないベイルの球。
でもフォアボールを奪いにいった赤星、
赤星はヒットを捨て、その両方に対応する姿勢をとった。
一塁ベースに立つために。

2−2から、5球目。
インコース高目のストレート。ファール。

カープバッテリーもフォアボールはやりたくない。
スライダーに目をつけているならば、高目のストレートが最も三振を取りやすい。

2−2から、6球目。
アウトコース高目、ストレート。ボール。

カウントは2−3になる。
フォアボールまで、あと一球。
しかし、2−3というカウントは、ボールを見逃せばフォアボールなのだが、
ストライクを見逃せば当然三振となる場面。
打者として、見逃しの三振ほど悔しい結果はなく、
どうしても、振りにいってしまうカウント。それがツースリー。
定石で言えば、アウトローのスライダーを振らしにかかる場面だが・・・

2−3からの7球目。
真ん中低目、ストレート。ファール。

裏をかいたストレート。変化球に対応できる状態で待つ場合、
詰まって内野ゴロも多いケース。ファールにした、赤星の勝ち。

そして、
2−3からの8球目。
インコース高目、ストレート。ファール。

どうやら、力でねじ伏せようとしてきたベイル。
それに対し、必死に抵抗する、一塁ランナーになることしか考えていない赤星。
投球はインコースの高目、それをファールした後、
打者として一番イヤなのは、アウトコース変化球にクルッとまわってしまう空振り。
やはりそこに意識をおかざるをえない。
そして、定石どおりなら、インハイストレートの後は、変化球が来る。

2−3からの9球目。
真ん中低目、ストレート、ファール。

カープバッテリーの配球は見事であった。
大胆かつ、慎重。しかも、ベイルも失投をしない。
しかし、それを凌ぐ、赤星の気持ち。
ファールを打つ。

次は本当に何が来るか分からない。
とにかく、変化球を空振りしないように、ストレートに振りまけてフェアゾーンに飛ばないように。

2−3からの10球目。
インハイ、ストレート。ファール。

チカラできたカープバッテリー。それだけベイルの球に自信があるということだろう。
非常にインコース高目を意識させられてしまう。
遠くに曲がる球をファールしようとしている時に、
近くに速い球が飛んでくる。
いつも以上に、その球は、近く、速く感じたことだろう。

そして、
2−3からの11球目。
真ん中低目、スライダー。ファール。

そして来た、スライダー。
インコースをこれでもかと意識させられた後のスライダー。
見事にファールする赤星。

スライダーもファールしたことによって、投げる球がなくなったベイル。
投げても投げても打ちとれない。いったい自分はどれだけ投げればいいのだ。

赤星対ベイルの対決を見ながら、
矢吹丈対ホセ・メンドーサ戦を思い出すぼく。
倒れても倒れても立ち上がる矢吹に、最強のチャンピオン、ホセの内面がグラグラと揺れてきた。

マウンドのベイル。
とにかく、全力で投げ込むしかない。
1点勝ってるのに、
まだ先頭バッターでランナーもいないのに、
非常に追い込まれた状態になったベイル。

2−3から12球目。
インハイ、ストレート。148km。最速。

ファール。

渾身の力を振り絞って投げたストレート、またファールにされてしまう。
窮地に立たされたベイル。
追い込んだのは赤星。

2−3から13球目、
アウトコース、ストレート。148km。同じく最速。


フォアボール。


見事、この大一番を制した赤星。
堂々と、一塁ベース上で、日本一の一塁ランナーとしての輝きを放った。


その後・・・

鳥谷に初球をバントされ、
代打の濱中には一球もストライクが入らず、
金本は、なんとか打ち取るも、

ツーアウト1塁3塁の場面。
バッターは今岡。

その初球に投じられたストレート。
球速は、


138km。


赤星はフォアボールを奪うと同時に、
ベイルの球速を10km奪った。



そしてその直後、
5番打者が試合を決めたんだ。


akahoshi925.jpg
『赤星の13球』
また一つ伝説が生まれた。後世に伝えなきゃ。



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posted by コーチ at 08:19| Comment(9) | TrackBack(5) | □ 赤星 憲広 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年の奇跡、今岡誠

今年も猛暑だった夏場。

一人だけ、夏が来ない彼がいました。大きな大きな憂鬱をたずさえ、
一人だけ、夏が来ない彼がいました。

今岡誠。

スイングも鈍く、
捕らえたはずの打球が全てファールになってしまっていた彼。
もともと苦手な守備もボロボロで、
もともと遅い足は、速くなるはずもなく、
夏の来ない今岡は、
打てない、守れない、走れない。

来る日も来る日もそんな試合を重ねていました。

そんな彼に、一ファンであるぼくたちは、
彼の姿を粘土で作り、
「打てますように」
「守れますように」と、
たくさんお願いしたものでした。
こんな日もありました。
こんな日もありました。
でも、こんな日もありました。


****************************


野村監督時代、
少し強めの言葉で言えば、
「干されていた」彼。

ぼくがその理由を知るよしもないが、
おそらくは、彼の「不安定さ」が理由ではなかったか。
自分で自分を追い込んで、悩んで、
何を考えているか分からないまま、不振に陥る彼。
そこは「長所」であり、「短所」である部分だが、
野村監督は、その「短所」を重要視し、今岡を干したのではなかっただろうか。
飽くまで邪推であるが。。。


干されていた今岡は、当然2軍暮らし。
当時の2軍監督、岡田彰布。
「不安定」ゆえの、チカラを、岡田は見ていたか。


昨日。


安定感ゼロの5番打者。
多くのことを感じやすく、落ち込みやすく、浮かれやすい、
安定感ゼロの感情豊かで、でもそれが表に出てきにくい、
愛すべき選手会長。


長嶋世代のうちの父親は、長嶋茂雄を称し、こう言っていた。
「長嶋は、“打ってほしい”という場面で打たなかったことがない。もちろん、全てのチャンスに打っていたわけではないだろうが、“必ず打つ”そういうイメージの残る選手だっただんだ」


ぼくは、長嶋茂雄の現役時代を知らない。
ずっと、そんな選手を見たいと思って野球を見て来た。


今岡誠と長嶋茂雄、おそらく人としての種類が違う。
というより、長嶋さんと同じ分類などありえないことだろう。
現役時代の長嶋さんを知らないぼくでも、それは分かる。


ただ、新時代の長嶋的なものを、ぼくは今岡に投影したい。
今岡には、そういう凄みを感じる。
不安定ゆえの凄み。
それを最大限に引き出した、
引き出せるまで我慢した岡田監督、最高。


ぼくが随分と年を取って、次世代に、
「今岡っていう選手はどんな選手だったの?」
そう聞かれたら、どう応えようか。

「今岡って選手はね、ダメになったらとことんダメで、もう大丈夫かな?と思ってもやっぱりダメで、でも“あ、打ちそうな顔してる”って時は、必ずホームランを打つ選手だったんだ。分かりやすいようで、分かりにくい。分かりにくいようで、分かりやすい。あぁ、野球は人間がやってるスポーツなんだなぁ、ってそんな当たり前のことに気がつかせてくれる、そんな選手だったんだよ」

「じゃあ、岡田監督は?」

「岡田監督は、そんな今岡の人間味溢れるとこを、一番愛してあげた監督なんだ」

「なんか、“人間味”とか“愛”とかって抽象的なことばっかりだね?そんなチーム、強かったの?」

「あぁ、むちゃくちゃ強かったんだよ」

「“愛”と“勝負”って矛盾する気がするけど・・・」

「でも、その矛盾を一本の線に結びつけて勝ち星を重ねていった、それがあの有名な2005年の奇跡なんだ。そしてその象徴が、5番打者今岡誠なんだよ」

imaoka925.jpg
2005年の奇跡、
その象徴はもちろん、今岡誠。



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posted by コーチ at 06:45| Comment(4) | TrackBack(5) | □ 今岡 誠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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