9回表、1点ビハインドの先頭打者、赤星。
ぼくが知る、赤星の打席の中で、
この打席は、最高の打席だった。
赤星という選手は、本当に素晴らしい野球選手だ。
べイルという投手は、そう簡単に打てる投手ではない。
ドラゴンズの岩瀬、タイガースのウィリアムスと肩を並べる、
左腕の抑えとしては一流の投手。
対する赤星。
何が何でも出塁したい場面、
一塁ベース上に立った赤星は、日本一の一塁ランナーとなる。
そのことにとても意識的な赤星。
カウントが2−2になったあたりだったか、
赤星は積極的にフォアボールを奪いにいったように見えた。
フォアボールを「選ぶ」のではなく、「奪い」にいく。
調子は悪くなかったベイル。力強い高めのストレート。
赤星に投じた初球は147kmを計時した。
左対左の対戦。
ウィリアムスが中日の福留を外角のスライダーで三振にしとめようとするように、
そこを攻められる可能性が非常に高いカウント。
赤星は、アウトローのスライダーをファールできるタイミングで待ち、
かつ、高目のストレートにも対応できる状態で待っていたように見えた。
「ヒットでなくていい。その両方をファールする」
ヒットにしようと思えば、そのどちらかに比重をおいて待たなければ打てないベイルの球。
でもフォアボールを奪いにいった赤星、
赤星はヒットを捨て、その両方に対応する姿勢をとった。
一塁ベースに立つために。
2−2から、5球目。
インコース高目のストレート。ファール。
カープバッテリーもフォアボールはやりたくない。
スライダーに目をつけているならば、高目のストレートが最も三振を取りやすい。
2−2から、6球目。
アウトコース高目、ストレート。ボール。
カウントは2−3になる。
フォアボールまで、あと一球。
しかし、2−3というカウントは、ボールを見逃せばフォアボールなのだが、
ストライクを見逃せば当然三振となる場面。
打者として、見逃しの三振ほど悔しい結果はなく、
どうしても、振りにいってしまうカウント。それがツースリー。
定石で言えば、アウトローのスライダーを振らしにかかる場面だが・・・
2−3からの7球目。
真ん中低目、ストレート。ファール。
裏をかいたストレート。変化球に対応できる状態で待つ場合、
詰まって内野ゴロも多いケース。ファールにした、赤星の勝ち。
そして、
2−3からの8球目。
インコース高目、ストレート。ファール。
どうやら、力でねじ伏せようとしてきたベイル。
それに対し、必死に抵抗する、一塁ランナーになることしか考えていない赤星。
投球はインコースの高目、それをファールした後、
打者として一番イヤなのは、アウトコース変化球にクルッとまわってしまう空振り。
やはりそこに意識をおかざるをえない。
そして、定石どおりなら、インハイストレートの後は、変化球が来る。
2−3からの9球目。
真ん中低目、ストレート、ファール。
カープバッテリーの配球は見事であった。
大胆かつ、慎重。しかも、ベイルも失投をしない。
しかし、それを凌ぐ、赤星の気持ち。
ファールを打つ。
次は本当に何が来るか分からない。
とにかく、変化球を空振りしないように、ストレートに振りまけてフェアゾーンに飛ばないように。
2−3からの10球目。
インハイ、ストレート。ファール。
チカラできたカープバッテリー。それだけベイルの球に自信があるということだろう。
非常にインコース高目を意識させられてしまう。
遠くに曲がる球をファールしようとしている時に、
近くに速い球が飛んでくる。
いつも以上に、その球は、近く、速く感じたことだろう。
そして、
2−3からの11球目。
真ん中低目、スライダー。ファール。
そして来た、スライダー。
インコースをこれでもかと意識させられた後のスライダー。
見事にファールする赤星。
スライダーもファールしたことによって、投げる球がなくなったベイル。
投げても投げても打ちとれない。いったい自分はどれだけ投げればいいのだ。
赤星対ベイルの対決を見ながら、
矢吹丈対ホセ・メンドーサ戦を思い出すぼく。
倒れても倒れても立ち上がる矢吹に、最強のチャンピオン、ホセの内面がグラグラと揺れてきた。
マウンドのベイル。
とにかく、全力で投げ込むしかない。
1点勝ってるのに、
まだ先頭バッターでランナーもいないのに、
非常に追い込まれた状態になったベイル。
2−3から12球目。
インハイ、ストレート。148km。最速。
ファール。
渾身の力を振り絞って投げたストレート、またファールにされてしまう。
窮地に立たされたベイル。
追い込んだのは赤星。
2−3から13球目、
アウトコース、ストレート。148km。同じく最速。
フォアボール。
見事、この大一番を制した赤星。
堂々と、一塁ベース上で、日本一の一塁ランナーとしての輝きを放った。
その後・・・
鳥谷に初球をバントされ、
代打の濱中には一球もストライクが入らず、
金本は、なんとか打ち取るも、
ツーアウト1塁3塁の場面。
バッターは今岡。
その初球に投じられたストレート。
球速は、
138km。
赤星はフォアボールを奪うと同時に、
ベイルの球速を10km奪った。
そしてその直後、
5番打者が試合を決めたんだ。
『赤星の13球』
また一つ伝説が生まれた。後世に伝えなきゃ。
もう、赤星最高!!の思いをクリックに◎blogランキングへ