2007年07月26日

彼のことを思い出す

○午前5時。コーチ、コンビニで勤務中

キンコーン(お客さんの入店を知らせる電子音)

コーチ 「いらっしゃいませ〜。あ、先生」
先生  「作ったで〜、記念グッズ」
コーチ 「記念グッズってなんですの?」
先生  「赤い星、300個や。寝んと作った。とても大変やった」
コーチ 「先生、フラフラですやん」
先生  「当たり前や! 段ボール切り抜いて、その後、赤い折り紙巻いていくんや。ほんで、金色の折り紙で、1から300までナンバリングしていくという行程や。 “53”は特に気合入ったで」
コーチ 「大変なんは分かりましたけど、それどうするつもりで持ってきたんですか?」
先生  「だから、記念グッズや言うたやん」
コーチ 「売るんは、無理ですよ!」
先生  「なんでや! 手作りやで!」
コーチ 「余計ダメです! 手作りのもん置いてるコンビニ見たことないでしょ」
先生  「コーチは既成概念にとらわれすぎなんや。一個1001円やで」
コーチ 「昔、そういう弁当あったけども! この件と300盗塁は繋がらないです。ほんで1001円は絶対、高いです」
先生  「30万300円の売上げになるねんで」
コーチ 「そんなに儲けてどうするつもりなんですか」
先生  「オレも車椅子を寄付したい。一台でもええから」
コーチ 「いいこと言うてるようやけど、その過程に問題がありすぎます。大人なんやから、全うにお金貯めて寄付してください」
先生  「チェッ」
コーチ 「チェッってなんなんですか!! ほな分かりましたよ。ぼくが一個だけ買いますわ」
先生  「ほんまに!」
コーチ 「先生、頑張って作ったんやしね。努力賞です。はい、1001円」
先生  「ほなコーチには、この赤い星をあげますので、裏に書いてあることをよく読んで思い出してください」
コーチ 「裏、ですか?」


〜2005年、9月1日、甲子園、対ドラゴンズ戦、三盗塁の日〜


コーチ 「あ! 先生、思い出しましたよ!」
先生  「あ、ちょっと待って、これとこれとこれ買うから」
コーチ 「は、はい。朝から駄菓子ですか? えっと全部で・・・」
先生  「計算どおりや」
コーチ 「1001円です」
先生  「これで、仲直りな!」
コーチ 「駄菓子で1001円になるように調整したんですか!」
先生  「せや、ちょっとコーチとの関係にわだかまりが出来たかも知れんって懸念してのことや」
コーチ 「先生、どんだけ、かわいいんですか」


先生  「仲直りもすんだところで、コーチ、ピンと来たか?」
コーチ 「来ましたよ、来ましたよ。ぼく、甲子園で見てましたもん」
先生  「せや。あの日や」
コーチ 「あれは、9月7日、ナゴヤドームで中村豊がホームランを打って事実上優勝を決めたあの試合の一週間前でした」
先生  「相手投手は、山本昌」
コーチ 「タイガースは下柳先輩でしたね」
先生  「その試合でや、赤星は三個盗塁決めてるねん」
コーチ 「そうでした。さらに、攻略の形も粘って粘って、球数投げさせて、8番の関本が出塁して、次の回を1番から始めるという理想的な攻撃で・・・」
先生  「そっくりやろ?」
コーチ 「確かに。昨日はそういう試合でした」
先生  「昨日、ドラゴンズの投手に投げさせた球数合計で何球や思う?」
コーチ 「いや、ちょっと分からないですけど」
先生  「219球やで!」
コーチ 「マジっすか」
先生  「山本昌に対しては3回1/3で、101球投げさせとる」
コーチ 「そんな攻撃、今年ちっともできてなかったですもんね」
先生  「甦った、スペンサー打線!!」
コーチ 「ハハハ、久し振りですねぇ、その名前」
先生  「一昨年の優勝の象徴でもあった、とにかく後ろに繋いでいく攻撃。バントせず、エンドランもせず、打てても打てなくても、とにかく1回から9回まで全員が勝負をしかけたあの攻撃スタイルや」
コーチ 「打ちやすくして、打つ。打ちやすくして、打つ。の繰り返し」
先生  「それを“打ちやすくすること”に重きを置いて一年間やり続けたのが、スペンサーやった」
コーチ 「そうですねぇ。例の赤星三盗塁の試合でも、6番スペンサーから、なかなかアウトにならない攻撃が始まったんでした。結局スペと7番の矢野はアウトになるんですけどね。その後、関本がカチンと打つ。ピッチャーまで回る。次の回、1番から」

先生  「昨日の試合を振り返るとやな、4回の逆転の2点、あのイニングが象徴的や」
コーチ 「そうですね。その前の無得点のイニングから繋がってるんですよね」
先生  「せや」
コーチ 「林クンから始まって、林クン、桜井と凡退」
先生  「その後、7番の矢野が踏ん張ってフォアボールで出塁する。ええ兆候やなぁと思った」
コーチ 「そしたら、続く関本が、ライト前に打つんですよね」
先生  「2アウトランナーなしで7番は、ふつうに考えたらその回はほとんど点が入らへん」
コーチ 「2アウトランナー1塁で8番もそうですしね」
先生  「だけど、たとえその回、無得点でも2人が出塁することで」
コーチ 「次の回に逆転した」
先生  「“打線”って久し振りやなぁ」
コーチ 「若手ではなく、2005年を全うした今期不調の二人が起点になったことも大きいですしね」
先生  「ほんで、4回の赤星や」
コーチ 「初回に300盗塁達成して、なんかパーッと晴れた感じありました」
先生  「先頭の鳥谷は簡単にアウトになるねんけども」
コーチ 「それがまだまだ今年のタイガースの現状や思います」
先生  「せっかくスペンサー打線の再来か、という火種が起きてるのにそれが消えかけたところやった」
コーチ 「赤星、四球ファール打って、その後ヒットで出塁するんですよね」
先生  「最高の出塁やったな」
コーチ 「そして、2005年と同じ場所におさまったシーツが、三球ファール打って、七球目をレフト前」
先生  「そして、昨日のハイライトや」
コーチ 「ワンアウト一塁三塁で、アニキの打席でした」
先生  「強かった頃のタイガースはこの場面で、アニキが本当によくフォアボールで出塁してた」
コーチ 「そうですね。そして5番が打って得点してたんですが・・・」
先生  「まぁ、5番の件は今はおいといてや、昨日のアニキ。ここで11球投げさせてのフォアボールや」
コーチ 「スペンサー打線の火種にアニキが敏感に反応したんでしょうね」
先生  「せやな。アニキが打つよりも、打たせることを選んだ打席やったような気がする」
コーチ 「そして1アウト満塁」
先生  「ピッチャーにとって、これ以上しんどい過程の満塁はありえへん。キワキワの勝負で全部少しだけ負けての満塁。ほんま僅かの差で内容的には三者凡退で終わっててもおかしくないイニングなんや。やけど、満塁」
コーチ 「そして、林クン、桜井」
先生  「入るべくして入った2点や」
コーチ 「懐かしい香りのする、2得点」
先生  「そのあとドラゴンズに取られた2点は井端とウッズやからもう役者が違うんでしゃーない。ロナウジーニョとアドリアーノみたいなもんや」
コーチ 「うまいこと言いますね」
先生  「諦めもつく」
コーチ 「対してタイガースの7点目8点目は、粘って四球で出塁したランナーを、藤本が初球タイムリー」
先生  「林クンも初球タイムリー」
コーチ 「まさに、打ちやすくして、打つ。の流れでした」
先生  「その後大量得点にならんかったんは、タイガースがまだ覚醒してないってことで、それが現状」
コーチ 「まだまだノビしろがあるってことですよね」
先生  「せや思う」
コーチ 「なんか、いい予感がむんむんしてきましたわ!」


先生  「ところで、登録抹消の件やけどな」
コーチ 「そうですね」
先生  「絶対に間違ったらあかんのはな」
コーチ 「はい」
先生  「今岡はストイックになったらあかんってことや」
コーチ 「そうですね、今岡は特に自分を追い詰めたらいい方向に出ないですもんね」
先生  「誰か助けてください!!って泣きじゃくる勇気を持つために二軍に行ったんやと思う」
コーチ 「プロやねんから自分で何とかせぇ、っていうことを全力で撥ね退けるってことですよね」
先生  「自分でなんとかしようとしすぎて現在や。他人に甘えることのできる勇気が今岡には最も必要やと思う」
コーチ 「そう思います」
先生  「悔し涙をいっぱい流して、バット振りまくって帰って来い、今岡」
コーチ 「絶対帰ってこなあかん。このまま終わったら絶対あかん」
先生  「そのために“打ちたいよー!!打ちたいよー!!”って叫ぶんや。心の底から“打ちたい”って気持ちを表現できたら絶対打てるから。感情をセーブしたらあかん。今岡は誰よりも繊細なプロ野球選手なんや。それでもここまで来たんや、一流と呼ばれるところまで上り詰めたんや。“わー!!”って叫びながらバット振って来いって泣いて目ぇ腫らして、手のひらマメでボコボコにして帰ってきたとき甲子園にこのアナウンスが響くでしょう、
5番、サード、今岡」
コーチ 「そして、“線”を取り戻した“打”の中にもう一度戻ってきて、打ちまくってほしい。覚えてますか? 赤星が三盗塁を記録した二年前の甲子園。あなたはその試合で、2本塁打6打点を記録しています。二本目のホームランは10球ファールで粘ってのスリーランホームランでした。その姿が目に焼きついて離れません」


2005年9月1日ドラゴンズ戦観戦記


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posted by コーチ at 10:26| Comment(7) | TrackBack(0) | □ 赤星 憲広 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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