コーチ 「はい」
先生 「スローで見ても、正直よう分からんのや」
コーチ 「あれを『ボーク』って言ってしまったら、他のピッチャーでもボークとらなあかんケースいっぱいありますもんね」
先生 「投げる前にちょっとだけ足とか肩とか動いてもうたりな」
コーチ 「で、いったん停止して、投げ始めたら」
先生 「ルール上はそれもボークや」
コーチ 「カープのベンチも、それほど気にしてなかったですし」
先生 「え? ボークなん? ラッキー、って感じや」
コーチ 「それやったら明らかな反則以外は取る必要ないですもんね」
先生 「なんか、審判が控え室かどっかで確認し合ってた風景が目に浮かんだんやけど」
コーチ 「あったでしょうね。『ジャンはボークあるんで気をつけましょう』みたいな」
先生 「ちょっと強めに言うと『オレがボークを見つけたった』みたいな、審判としてのイヤなエゴみたいなもんも見えた気がした」
コーチ 「サッカーの審判やったらそういうのに一定の罰みたいのがあるんですけどね」
先生 「イエローカード乱発して、試合をムチャクチャにしてしまったりとか、そういうことがはっきり『ダメなこと』とされてる」
コーチ 「やってる選手を審判がイライラさせたら、いいゲームにならないですもん」
先生 「だからな、ボークを指摘するんは問題ないと思うねんけどな」
コーチ 「はい」
先生 「あれだけ微妙やねんから、最初から一発でボーク言うてしまわんと『今の微妙でしたよ、次同じことやったらボーク取りますから気をつけてください、って注意をしておくべきやったと思う」
コーチ 「そうですね。そしたら反則を見てみぬふりするわけでなく、試合も荒れることがない」
先生 「それを、『はい、今やったー! ボーク!ボーク!おまえ、ボーク!』ってジャンならずともキレるで」
コーチ 「ですよね。ジャンにもそのつもりがなかったし、バッターの梵も全く気にすることなく打ちに行って打ち取られてました」
先生 「せやねん。でまぁ、たとえばテストの時にな」
コーチ 「はい」
先生 「普段ちょっと素行の悪いやつがおるとして、そいつがカンニングせぇへんか見張ってて」
コーチ 「ええ」
先生 「疑われてる本人は、ちょっと肩がこった感じになって、首をちょっと動かしたときに」
コーチ 「はい、今やったー! おまえやったー!」
先生 「そんな感じやねん。教師としては絶対にやってはいかん行為や。敢えて言うとカンニングするよりもやったらあかん」
コーチ 「そうですね。教師と審判の仕事は違いますけど、言われた方が『やってへんわ!!』って腹立つんは同じことですもんね」
先生 「昨日のケースに話戻すと」
コーチ 「はい」
先生 「ボークのコールでショートフライが取り消しになって、打ち直した梵に、ジャンはデッドボールを与えてしまう」
コーチ 「あれは完全にバランス崩してましたし、絶対にわざとではなかったです」
先生 「やけど、乱闘寸前や」
コーチ 「それを仕掛けた張本人が『審判』っていうのってねぇ」
先生 「あってはならんことやと思う」
コーチ 「ちょっと考えてほしい場面でしたね」
先生 「人は疑われるとあかんようになっていくんやと思う」
コーチ 「そうですよね、で、それについてちょっと思いついたんで、自分の話していいですか?」
先生 「おう」
コーチ 「ぼく、店移ったじゃないですか」
先生 「せやなぁ」
コーチ 「移った当時の今の店ってね、相当な金額のロスが出てたんですよ」
先生 「ロスっていうのはあれよな。簡単に言うと、どんだけ万引きされてるか、ってことやんな」
コーチ 「はい。『今まで発注した商品の合計』と『売上げ』プラス『現在、店内にある商品の合計』は、本来的にはイコールで当然なんですけど、まぁ、ゼロってことは考えられないもんなんですけどね、それにしても多かったわけです。たとえば煙草の部門で相当な金額のロスが出てたり」
先生 「煙草って、レジの中にあるもんな」
コーチ 「そうなんですよ。煙草でマイナスが出るのは、客の万引きではなく、ほぼ間違いなく内部犯行なんです」
先生 「で、どうしていったんや?」
コーチ 「本部の人間はね『だからもっと徹底的に管理せなあかん』みたいなことを言ってたんですけどね。当然それは違うわけで」
先生 「せやな」
コーチ 「それはその本部の人を批判することにもなってしまったんですけどね、大事なことやから自分を通しました。疑う前にまず信じたらなあかん。もし内部でそういうことがあったとしても、それはそれをやった子らが悪いんじゃない。その子らを疑った方の、その子らにイヤな思いをさせた大人の責任や、と。ぼくはまず信じます。おまえらはそんなことやる奴らじゃないって信じます。そしたらいつの間にかそんなことが問題じゃなかったようになるからまぁ、見といてください、と」
先生 「で、どうなったん?」
コーチ 「次の棚卸し(ロスの調査)の時、全体のも随分減りましたし、煙草はプラマイゼロでした」
先生 「そんなもんなんよな」
コーチ 「人なんて、いいようにも悪いようにもどっちにも転ぶもんやと思うんですよ。だから、まず信じてあげないと。親にも先生にも信じてもらえないまま大学生になってる子らが今いっぱいおるから、だから20歳からでも、ぼくが信じてあげることが、ほんの少しでも何かに繋がってくれたらなぁとは思ってるんです」
先生 「コーチ!!」
コーチ 「はい」
先生 「好き!!」
コーチ 「へへ、恥ずかしいですけど、嬉しいです」
先生 「なるほどなぁ」
コーチ 「でね、昨日のジャンなんですけどね」
先生 「せやった。ジャンの話やった」
コーチ 「ジャンは二回目のボーク以降、もう、四方八方から疑われてる気持ちで投げてたんやと思うんです」
先生 「せやな。実際そうやったような気がするし」
コーチ 「6回ウラ。ランナー二塁、代打森笠の場面で、いっぱいいっぱいやったジャンを監督は続投させました」
先生 「『続投』は『任せた』やからな」
コーチ 「『任せた』は『信じてるで』です」
先生 「度々、サードからシーツが声をかけてるのも良かったし」
コーチ 「『疑われても』『孤独じゃない』ってシーツは伝えたんですよ。言ってたことは『冷静になろう』とかそういう意味かもしれないけど」
先生 「結果的には、ジャンを孤独から救っていた」
コーチ 「そして、疑われ続けて消耗しきったジャンは」
先生 「『信じられること』の中でその投球を終えた」
コーチ 「抗議をした後、前夜に引き続き、監督はマウンドへ行った」
先生 「何て言ったかは知らんけど、ジャンにはこう聞こえたかな」
コーチ 「I believe you」
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でも救われたのが、チームの雰囲気が「またかよ」じゃなくて、「ドンマイ、信じてるぞ」って感じだった事です。ジャンが頑張ってるの、みんな見てるからですよね。
そうそう「またかよ」って空気はいっさいありませんでしたね。あまりに当然になりすぎてて気が付かなかったけど、確かに「またかよ」にならない空気って実は作るの難しいですもんね。
そういう空気だから→勝てるってことが、岡田タイガースの一番の魅力やと思います。たくさんのことが好転してきました!!