男は時として、身を挺して大切なものを守らねばならない。
信じられた男は、全責任を自分で背負う覚悟を決めた。
カウント2ストライク1ボール。
打席に高橋由伸、マウンドには藤川球児。
インコースにストレート。高橋がそれをバックネットへファール。
球児が矢野のサインに首を振って投げたストレートだった。
ファールが飛び、しばしの間が訪れる。矢野は下を向き考えを整理しているようだった。球児もまたマウンドで大きく息をはき来るべき勝負球へ神経を研ぎ澄ます。
ここで矢野が立ち上がった。マウンドの方へ駆け寄った。ファールの後即座に立ち上がったわけではなかった。数秒の間があって、「うん。よし行こう」葛藤の末立ち上がったことが読み取れる「間」だった。
自分の出したサインと球児が投げたいボールが合致しなかった場合にイヤな予感がしたのだろう。球児はそのサインに首を振るだろうか。振ってくれたらまだいい。「いや、ここは矢野さんを信じよう」投げたくなかったボールを「投げるべきだから」投げて、抑えられる場面ではない。
相手は高橋由。ビッグゲームのクライマックス。この三連戦、いろんなことが起きた。最後の最後に「あってはならない、まさか」が起こりうる流れは常に孕んでいた。
このまま最後の投球に向かうわけにはいかない。夏の東京ドーム三連戦。「球児、お前に任せる」矢野はおそらく、そのことを伝えにいったのだ。その意はもちろん、「球児、おまえを信じてる」。
小さなわだかまりが大きな結果を生む可能性があった。年上の女房、矢野輝弘はその小さなわだかまりを「信じること」で払拭した。
時として男は、身を挺して大切なものを守らねばならない。
信じられた男は、全責任を自分で背負う覚悟を決めた。
「オレが、守る」
「オレが、守る」
「オレが、守る」
マウンドで球児が覚醒していった。
大切なものを守るため、あふれ出てくる不安や邪念を大いなる意思で封印し己との戦いに勝利した。
カウント2−1から、一球ファールを打たれた5球目。
その気持ちを賭して、球児はモーションに入った。
男が放った光は、インコースのストレート。
高橋のバットは、空をきった。
空振りの三振。
年上の女房はその瞬間、大きく拳を握った。
マウンドの男は小さくしかし強く拳を握った。
責任を果たした男のみが持つ誇りを抱き、
堂々とマウンドから降りてくる若き大黒柱に、
自分を信じてくれた年上の女房は感情を体いっぱいで表現し駆け寄ってきた。
その表情に、男は少しだけ、安堵の笑みを見せたんだ。
男、球児。家族を守る。
スコアは2−2の引き分け。
夏の東京ドーム大一番。引き分けにて、さらに混沌は進んだ。
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いつも記事を読ませて頂き暖かい気持ちにさせていただいています。
>自分を信じてくれた年上の女房
矢野さんは投手への気持ちが非常に強い人だな〜と常々思わされます。「投手自身が己を信じて投げる球を信じてやまない人」というのか、とにかく暖かい包容力のある捕手に思えます←単に矢野ファンだからかもしれませんが(笑)
昨日は引き分けでしたが最後まで勝利を掴もうとする選手、2戦目の大勝にも気を緩めず優勝を目指して頑張る選手を見れるのは幸せです。私も優勝を願って応援を続けたいです。
今日から横浜戦。またチャレンジですね!
はじめまして、コメントありがとうございます。
sorakoさんのおっしゃるように、矢野選手の魅力って、ぼくもほんまに「暖かい包容力」やと思います。こう「無償の愛」的な、「母が息子に」「妻が夫に」「夫が妻に」そういうような、代償を求めない中での気遣いや「あなたが好きだ」という気持ち。そういうのがすごく表に出るところ。
sorakoさんやたくさんの「矢野ファン」の女性はおそらくそういうものがあふれ出る「試合終了直後の笑顔」に圧倒的に惹かれるのではないかと思ったりするのですが、違うかなぁ? ぼくは男ですので、その辺は推測なのですが、年上の先輩の男性として同じくそういう部分に魅力を感じます。
かっこいいなぁ、って思います。
矢野選手は今日はお休みですね。
6連戦の真ん中で休めるのはいい休みな感じがします。野口選手も「おれも出たい」が最も充満している頃だと思うので。
先日のカープ戦のような、上園ー野口大活躍の試合が見れるといいなぁって思います。そんで矢野さんが「よっしゃおれも」って思えれば、タイガースはやっぱり強いです◎
マウンドの男は小さくしかし強く拳を握った。
こことても印象的でした。矢野さんの無償の愛的な包容力、球児との絶対的的な信頼関係。阪神ファンであるって言うことを超えて見ていて「野球っていいな。」って思いました。金本さんの男性的な家庭を守るっていうのもかっこいいけど、球児や矢野さんの守り方もとってもステキです。
コーチさんの文はいつも愛がある〜。
読んでいてうれしい!
お帰りなさい。旅行も充実してたみたいで嬉しいです◎
「男として」という部分なんですけどね、
金本選手はやっぱり別格ですが(笑)、昨日の投球は、何か球児がアニキ化してきているように見えたんですよ。ゲームセットになってから数秒の焦点の定まらない目がね、覚醒を意味しているのかなぁと思ってみたり。
正直なところを書くと、やっぱりこのゲームの中でラストのシーンが印象的で、でも最初は矢野さんを主役にしたタッチで書こうとしてたんですよ。カウント2−1からの「間」ってすごく矢野さんっぽい「人間がやってるんだ」って感じが出てたし、でもいつもならニコニコかけよる矢野さんはいつものごとくニコニコしてたけど、球児の表情が崩れるのが遅かったところがひっかっかて、そこをすごく考えたんです。何でだろう、かと。いつもはもう少し早いぞ、と。
「男としての覚醒」ってことで一応は結論付けたけど、本当のところは分かんないです。でも、一ファンとしてそう見ようと、勝手に決めました(笑)
絶不調から広島で復活した球児は、更なる次元へ突入しているかもしれません。球児に夢中のコーチでした(笑)