1勝1敗1分。その結果の通りの内容だった。
勝負の第三戦。
先発投手は予定通り、ジャンと高橋尚。
ジャンに対して、原監督は「機動力」に重きを置いたオーダーを組んでくる。7番脇谷、8番鈴木尚。
原辰徳の「力み」だと感じた。
近年の巨人の崩壊は、やはり各チームの4番を引き抜いて集めたことによる「不自然さ」が招いたものだったように思う。しかし、原監督の組むメンバー構成というのは「不自然」が非常に起こりやすい「巨人」という組織の中にあって、その中で最も「自然」を選択をしようとする志を持っており、それを体現できる名監督だ。
2002年の優勝時。河原をストッパーに転向させたことが大当たりし、十川や斉藤宜といった準レギュラークラスをスタメンでどんどん起用し、その彼らが大活躍したシーズンだった。「長嶋茂雄」という偉大すぎる名前がチームを去った後、一からチームを作り直しての偉業。「見事」の一言だった。あまりに「自然な」選手起用。それが独走Xをもたらしたことは誰の目にも明らかだっただろう。
2003年に「理由は巨人だから」ということで集約されるような、不可解な解任があり、その後ジャイアンツはどん底に陥っていく。亀裂、確執。チームスポーツにおける最大の敗戦要素を巨人は常に保持し続けていた。
2006年に復帰し開幕ダッシュを決めるも、「原不在」時に溜まった膿に疲弊していた選手たちは息切れ。しかし2年目の今年、堂々の首位争いを展開しているわけだ。原辰徳は名監督だ。あんなにもつまらなさそうに野球をしていた、上原、高橋尚、高橋由、阿部、二岡。主軸の選手たちが、これだけ活き活きと野球ができていることが名監督たる所以であるとぼくは思う。
ところが、昨日の大一番。
原の組んだオーダーにはやはり「力み」を感じたのだ。
「選手の特性・能力・気持ち」と「策」「相手投手との兼ね合い」その全てのバランスの折衷点によってスターティングメンバーは決定されると思う。原監督はこの「選手」と「策」のバランスを取る感覚に非常に長けている監督だ。
しかし、昨日の7番脇谷、8番鈴木尚という起用は、どうにも「策」に偏りすぎているような気がした。
周知の事実であろうが、ジャンは左打者に滅法強く、右打者に滅法弱い。http://baseball.yahoo.co.jp/npb/player?id=400579&p=2
対左打者の被打率が.210というのは、巨人の先発高橋尚の対左打者被打率が.208ということを考えても、ジャンは「左キラー」と呼ぶに相応しい実績であろうと思う。(昨日の試合が始まる前もほぼ同じ数字でしたので)
そこで左打者をズラリと並べてくることは当然、ジャンとしてラクだった。(鈴木尚はスイッチヒッターだけど機動力重視のオーダーであるので当然左打者の鈴木として起用していると思われる)
ただ、だからと言ってこのデータだけを元に、センターで矢野謙やホリンズを起用し、セカンドにスイッチヒッター木村拓を入れて右で打たせ、スンヨプを外してファーストに大道を起用するとかそういうのは違うのだ。それもまた「策」が先行しすぎ、チームのバランスを崩すきっかけとなりうる。
「自然」はやはり、最近の流れを見れば、7番清水で8番は第一戦で大活躍しながら二戦目に守備固めでしか出場機会がなかった木村拓ではなかったか。結局第三戦でも木村拓は出場機会がなく、今後の巨人に少なからぬ影響を残す可能性が出たと思う。
結果論になるが、巨人の得点は第二戦目の屈辱を克服した天才阿部のホームランと(本当にこの三連戦の阿部は凄かった)、鈴木尚がヒットで出塁して、送りバント、ジャンのボーク(ではないと思ったけど)と、高橋由のタイムリーヒット。機動力はあまり活かされなかった。
さらに7回、またまた阿部が先頭打者でウイリアムスからヒットを打つ。そして脇谷がバント失敗。右打席に入った鈴木尚が併殺打。あの場面は非常に大きなドローの要因となった。
対してタイガースは、ここ数試合で固まった対右投手、対左投手のオーダーをそのまま出す。「そら桜井と浜中やろ。赤星は休ませたらなあかんし。そしたら2番は関本や」単純明快。この日のために進められてきた浜中復活のプロジェクトは「高橋尚から先制のホームラン」という最高の結果で、第一幕を終え、スタメンの桜井も得点には繋がらなかったが、ツーアウトから2塁打を放ち、4回の表を9番までまわすきっかけを作った。5回の1番からの攻撃で得点が入らなかったのはやはり高橋尚と阿部のバッテリーが凄いからで、仕方がない。さらに8回、岡田監督が勝負をかけたイニングで林クンに代えて代走に赤星。投手が西村に代わったところで桜井に代えて葛城。その葛城がヒットでチャンスを広げた。西村の好投で得点には至らなかったが、「自然性」でいえば、一枚も二枚もタイガースの方が勝っていたように思う。
12イニング。大投手戦だった。
高橋尚の気持ちのこもった丁寧な投球。速球派ではない左投手のお手本のような投球。しかし、タイガース打線もそれに完膚なきまでにやられたわけではなく、幾度かチャンスを作り、それを関本がものにした。ただ、高橋尚も素晴らしく一度しかものにできなかった。
ジャンもまた、現在の球界No.1左腕を敵に回しそれに匹敵する丁寧な投球。最悪の場面でボークを取られるという、もどかしい展開になるも、あそこを一点で抑えたことが偉かった。あれをボーク取るんだたったら、ウイリアムスがグラブの中で球を握りなおしてるのだってボークだよ。微妙に動いてるもん。ジャンの「止まってない」はウィリアムスの「動いてる」くらいの「止まってない」でしかない。もしあれくらいの動作でボークを取られる選手が巨人の投手だったとしても同じことを思うよ。審判がゲームを壊すことをやってはいけない。これだけ続くともはや組織の問題だと思う。審判団の中の偉い人が「ジャンのボーク」についてうるさいんじゃないかな。「見逃したら後で怒られるし、注意しとかな」みたいな。「微妙なもんは全部ボーク言うといた方が身のためやで」みたいなそんな嫌らしさすら感じる。
だけど、ジャンは頑張った。ジャン、偉かった。ジャン、かわいい。
そして西村健太郎。
この人はいつの間にか本当に凄い投手になっていた。気持ちが前に出るようになった彼は、このままの状態が続くならば、久保田と肩を並べるようなセットアッパーとして君臨する可能性がある。
ジェフは8回の表、あの場面で矢野が出塁していれば代打が送られ降板だった。しかし、矢野が西村との勝負に惜敗し(よく粘ったけど)続投の8回ウラ。代打の大道、高橋由、谷と続く非常にしんどいイニングをピシャリと抑える。お見事。
で、上原。コントロールがいいということは美しいことだということを痛感させれる投球内容。シーツのレフトフライは「もう少し」という当たりだったけど、やはりトータルで上原が押し込んでいたからあそこまでしか飛ばないのだろう。完璧な内容だった。
タイガースが球児を最後に投げさせる、いつもの順番だったのに対し、ジャイアンツは上原を先に持ってきたゆえ、豊田が後に投げるいつもと逆の順序だった。上原がほぼパーフェクトの内容で2イニングを封じたことで、豊田に重圧がかかるかも、と少し期待したが、この豊田がまたまた素晴らしかった。右打者に対する外のストレートのコントロールたるや完璧。ストライクを取るボールはギリギリに、ボール球にしようと思うボールは、そこからボール一個分だけ外に投げる。外の見極めが必要になる打者がそこに意識を置いたときに、フォークボール。左右、高低。打者はその全ての見極めを必要とされた。それでもタイガース打線は簡単にはアウトにならないものの「アウトにならない」ことが精一杯で、結果西村、上原、豊田に対して無得点。
久保田はシビアな場面を当然のように二イニング投げきり、球児が男になって、大投手戦の幕は下ろされた。
結果、2−2ドロー。
よく言われることだが、この引き分けどちらが痛かったか。
ぼくはジャイアンツの方だと思った。
タイガースはわりと自然のまま二点取って、チャンスで抑えられて、JFKが踏ん張って引き分けた。アニキが打てないのも、浜中が打ったのも「自然」の中の出来事だったように思う。できれば代走の赤星に盗塁があればよかったが、「いけたのにいかなかった」という雰囲気ではなかったので、問題もない。阿部が絶好調だっただけにウエストされて刺されるリスクは常にはらんでいたから。で、次の試合に目を移すと今日は上園だから矢野は休みだろう。野口がスタメンでマスクをかぶること。これもまた「自然」として機能している。
対してジャイアンツの機動力重視オーダーによる「やや不自然感」。確かに大事な試合だったが、その試合を取るために考え抜いたであろうということもよく理解できたが、だけども結果、チームバランスにおける「不自然」を招き、それを阿部と投手陣で必死に覆い隠して引き分け。延長10回、代打の清水が四球、ノーアウト1塁で高橋由に打たせてライトフライ。1アウト1塁でカウント0−2のバッティングカウントで谷に送りバントのサイン。これを谷が失敗。少しギクシャクしているように見えた。
次回の伝統の一戦はちょうど一ヵ月後、また東京ドーム。
この引き分けの意味がこの一ヶ月間で出されていくのだろう。
ジャイアンツは今日からドラゴンズとの大一番。
ドラゴンズは昨日、1アウト1−3塁の場面で、1塁ランナーだった井端が、ウッズが打ったショートが取れるか取れないかというライナーをショートがはじいて転がった打球で、なんと一塁から一気にホームまで帰ってきて勝っている。信じられない走塁だけど、それが井端であり、ドラゴンズの「らしさ」だ。
福留不在の暗中模索は、堂上兄が一番に定着することによって、二番荒木、三番井端、四番ウッズ、で機能し始めた。
さぁ、どうなる混沌のペナントレース。
4チームがだんご状態になってから、初めての「広島ーヤクルト戦」。前回の広島―ヤクルトのカードは、ナゴヤドームでタイガースが三連勝した時のことだった。あれから一気に浮上したタイガース。そして浮上してからはじめての、阪神ー横浜、中日ー巨人と同時に潰しあいをする三日間。この三日でどう動くか。非常に重要な三日間の前の試合は2−2の引き分けだった。
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