前日の神宮初戦。
タイガースはペナントレースを闘っていくことにおいて、
何よりも大きな宝物を手にした。
それはとても優しい宝だ。
「桧山さんの満塁ホームラン」
これはぼくの勝手なイメージだけど、
打席に入る前に目を閉じる。
目を閉じて、思い出すのは桧山さんの満塁ホームランのシーンだ。
桧山さんは心をどの場所に置いて打席の中に立っていたか。
桧山さんが格闘していた巨大な憂鬱を、
それと真正面から対峙してバットを振り続けた真摯な姿を。
そして「なんとかしよう」と取り組み続けたことだけを背景に、
追い込まれてからのフォークボールを強く振りにいった勇気を。
そして、桧山さんの打球はバックスクリーンまで届いた。
桧山さんの安堵の表情を、みんなで祝福した。
目を開ける。
その時、たとえば桜井の心は「打つこと」において、最も適した場所に在ることができると思う。
「桧山さんのように振るだけだ」
レフトオーバーのホームランを打ちたい、という欲もなく、その欲がないのでその欲を打ち消そうと過度にミートを心がけることをする必要もなく、ただ投手の投げた球道に添って、自分の出せうる最も適した角度でバットを出していく。
桧山のメンタルが桜井へと入っていけば、
あんなホームランが二本も、その後にあんな右中間への打球が生まれる。
それが関本ならば、桧山と同じ距離くらいのホームランだった。
やっぱりアニキはもっと遠くまで飛ばした。
野口はやはり上園を上手に持ち上げて、
上園は最後まで投げきってみせた。
『闘志』と『達観』が絶妙のバランスで存在した昨日のタイガース。
ワイルドピッチでの加点も、スワローズバッテリーに重圧をかけ続けた結果。
残り37試合。プラス、プレーオフ。
相手だって真剣だ。全部昨日みたいにはいかない。
だけど、うまくいかなかったときこそ、
「桧山さんの満塁ホームラン」を思い出せばいい。
宝を手にしたチームは翌日、
その宝を輝かせた。
その光は優しく、穏やかな光。
ジャンも見てただろ? 満塁ホームラン。
あの場所で野球やってみようよ。
あの場所でやろうとしてみようよ。
監督、久保コーチ、矢野さん、みなさんゴメンナサイは言えましたか?
桧山さん、ありがとう。は言えましたか?
武内選手にもしっかり謝らなくちゃ。
繊細さゆえ、内面のコントロールができないならば、
答えは降板して間もなく桧山さんが見せてくれたよ。
人の気性は本当に本人の問題だけでないことが多い。
親や教師や友達や、小さな頃に触れた様々な経験が、人の内面を大きく構築していくことは間違いないと思う。
全部その人だけの責任じゃない。
だけど、それを人は受け入れて生きていかなきゃなんない。
幸せな人生を送りたいと思うなら、
それを受け入れて克服していかなきゃなんない。
ぼくの周りにも、昔深刻なイジメに遭っていた人もいるし、親の暴力のせいでうつ病に陥ったのに、現在親が背負った借金を返している人だっている。自殺未遂を経験した人も何人も知ってる。
それはみんな自分のせいでそうなったわけじゃない。他の理由の方が遥かに大きく結果、大人になってもその問題と対峙しなきゃなんない人たちばかり。だけどみんなそれはそれとして受け入れて、「自分のせいじゃないけど、自分のこと」と受け入れて、「幸せになりたい」って頑張ってるよ。人を信じることが分からなかった人が、「信じること」を獲得するために振り絞る勇気は圧倒的に素晴らしく自分を後押ししてくれる。
「桧山さんの満塁ホームラン」は、そういったたくさんのことを見事に昇華しきった人のみが体現できる、本当に美しいホームランだと思った。
その美しさを本当に受け入れきれたとき、
もう一度マウンドに戻ってきてください。
ジャン投手へ、
ぼくは、待ってます。
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