2007年09月08日

笑顔の奪首

大激戦明けの天王山第二戦。

前夜とは打って変わって緊迫した投手戦。その投手戦を呼んだキーワードは「混乱」だった。

ジャイアンツの先発投手は、久保か福田だろうというところで久保。ある程度予想された中での久保だった。対してタイガースの先発投手は、安藤。予想された下柳先輩用のオーダーを組んできたジャイアンツ。まず一つ目の混乱が、全く準備をしてない中での「対安藤」であったと思う。

なんとなく落ち着かないムードの中、プレイボール。

逆転首位への狼煙が鳥谷の初球ホームランで上げられる。
いつものように足を上げてタイミングを取る鳥谷。
「あ、早い」少しタイミングがズレたと反応する鳥谷。瞬時にもう一度足を上げ直す。

ジャイアンツバッテリーとしては確かに不用意な入り方だったかも知れない。甘く入ったカットボールだった。
しかし、細胞レベルで反応した鳥谷の見事なホームラン。

そうだ難しく考えることは何もない。やってきたことを信じて、それに反応するだけ。

初回からタイガースに「いける」というムードが充満する。しかし、ここに落とし穴があることにこの時点では気づくことができない。

動揺を隠せない久保は明らかに制球を乱していた。

2アウトからアニキが一塁線を破る二塁打で続き、「もう一点取れば一気にノックアウトだ」という場面で桜井。
決め球のフォークボールが素晴らしかった。桜井、これを空振りで三振。あれだけ不安定だった立ち上がり、いきなり訪れた「ここ一番」の場面。最高のフォークボールを投げることに成功した久保。あそこでずるずる行かないのがジャイアンツがここまで踏ん張ってきた強さなのだろうと再確認する。


ジャイアンツの「混乱」は、「先発が安藤」というだけではなかった。「安藤のフォークボール」。小笠原や谷はほとんど対戦がなかっただろうし、今シーズンは全ての選手が初対戦となる安藤。ナゴヤドームで延長を戦い、その翌日大激戦。明日はおそらく下柳というところで、安藤に対する準備をする余裕はなかっただろうと思う。

イメージで判断するしかない中で、イメージの中には出てこない「フォークボール」。そしてそのフォークボールをガンガン投げさせる矢野。前日強烈な打球をいとも簡単に飛ばし続けたジャイアンツ打線はこの二重の混乱に苦しめられた。さらに輪をかけて序盤から、厳しくインコースを攻める安藤と矢野。

何度か左打者のいい当たりが葛城のところへ飛んだ。二重の混乱、インコースのストレートの残像による僅かな躊躇、それがいい打球をヒットコースへ飛ばさなかった要因だと感じた。

しかし、タイガースにも予期せぬ混乱が訪れるのだった。
それは久保の急激な復調。
1回、2回の久保は「非常に悪い」という位置づけで判断されるような内容だった。桜井へのフォークボールは良かったが、葛城へのデッドボールや、追い込んでから矢野に投じた抜けたスライダー。あってはならないボールを随所に投げていた。しかし、2回表2アウト2塁3塁で鳥谷という場面。鳥谷が高目のストレートを打ち上げてしまう。この当たりから久保が自信を取り戻したように見えた。

「非常に悪い」から「かなり良い」への急激な変化。

一度「非常に悪い」でインプットしてしまったものを、「かなり良い」へ変更することは容易ではない。感覚に対して意図を働かせる必要があり、それはたとえば「面白くないけど、必要だから作った笑顔」のような不自然さを体内の中へ産み出させる。「作り笑い」のまま打撃を繰り返したタイガース打線。3回から6回までの4イニング。一人のランナーを出すこともできなかった。

タイミングを取り直して反応で打った初球ホームランが大爆笑だとすれば、大爆笑できるはずだったのに作り笑いを強いられる状況に追い込まれてしまったわけで、それは本当に、なんとも表現しがたい「やるせなさ」を産む久保の投球だった。

それに対して、安藤も疾走する。
5回までパーフェクトピッチング。ジャイアンツの混乱は続いていた。

5回表、久保対鳥谷。カウント0−3から打ちにいってほぼピッチャーの真上に打ち上げるサードフライ。
5回裏、安藤対小笠原。カウント0−2から打ちにいって、サードファールフライ。

非常に似た内容で両投手が投げ合っていく。
打者から見てともに「とらえた」と思うボールが内野フライになる。
球児のボールだと、それが空振りかファールになる。
しかし、久保や安藤のボールは一球でアウトになるような強すぎず
弱すぎないボール。ゲームは小康状態のまま6回裏を迎えていた。

問題は、ノーヒットのままでも安藤を降板させるかどうかだった。
いくら混乱を招いているとはいえ、これだけのジャイアンツ打線相手にパーフェクトやノーヒットノーランなど奇跡に近い。故障明けの安藤、完封もまた相当にしんどいだろう。しかも球場が球場なわけだ。必ずどこかでヒットは打たれ、ピンチは招くだろう。リードは一点。ジェフがいない。どこでノーヒットのままで代えるのはそれはそれで何か不穏な空気を招きかねない。だけど最長でも7イニングで代えて、久保田から球児へ繋ぐほうが勝利の可能性は高まるはずだ。

6回裏。スンヨプからだった。正直スンヨプにヒット打たれてホリンズをダブルプレーが理想だとか、そんなことを考えていた。

スンヨプに初ヒットを打たれた。だけど、ホームランだった。
同点。同点になったが、不思議とヒットを打たれたことに安堵した。これで勝てる、漠然とそんな気持ちになった。

そしてホームランを打たれた後の、ホリンズ、久保、谷をしっかりおさえ込む安藤。昨日の久保田もそうだった。打たれた後に踏ん張れる。安藤、ナイスピッチング!!
同点に追いつかれて、そのまま自然に流れをタイガースに呼び込んだ。逆流しているようでいて自然な流れ。


7回表。

真面目に頑張る人が活躍する。
野球の神様は東京ドームで一泊したのかな。

昨夜の桧山と同じようにフォークボールだった。
葛城育郎。
快進撃の船出となったナゴヤでの三連勝。当時は厳しい立場の中、代打で出ては四球を選び勝利へ貢献した。
浜中の復活劇では、代打の代打で引っ込む役だった。

葛城がホームランを打った。

桧山と同じ打ち方だった。何がどうしてそうなるのか分からないものがきっと体を反応させた。月並みだけど、一生懸命頑張ってたらきっといいことがある。それを信じて頑張るだけ。
ずっといい顔で野球をしている葛城に勝利の女神が微笑んだ。

一塁を回ったところ。強く拳を握りガッツポーズで女神に微笑み返す葛城。


その後、小笠原や矢野に攻守があって、西村豊田でジャイアンツは追加点を与えない。

タイガースはジェフ不在のため、江草と渡辺で7回を問題なく凌ぎ、久保田が前日のモヤモヤを吹き飛ばす。「分かってるけど打てないインハイのストレート」で谷を打ち取った。

9回は先頭の矢野が球児の唯一といっていい、「高めに投げようとした球が低くいってしまい通常よりも球威のないまっすぐになる」というコントロールミスを逃さずツーベース。しかし、ノーアウト二塁で高橋、小笠原、二岡と続く一点差の局面をピンチと感じない。今日の球児はまっすぐがとても良かった。

「混乱」が渦舞いた第二戦。
最後は分かっていても打てないストレートを投げる男がマウンドに君臨し、そしてタイガースは、とうとう首位に立った。

もちろん、まだ終わったわけではない。
しかし、逆転してしまった。12ゲーム差。

さぁあと一つ、一気に行ってしまおう。
今年は金本イヤーなんだ。
アニキを胴上げするために、まだまだ感謝したりないじゃないか。

ゲームセットの後、アニキは球児に満面の笑みで近づいて、球児もそれに笑い返す。葛城のホームランの後、本当に嬉しそうな顔をしていた赤星の姿が印象的だった。

勝っているから、そうなのではない。
そうだから勝てるのだと思う。

笑顔の中での首位奪取。
6回までの「作り笑い」はそこにはなかった。
呪縛を説いたのは葛城。
葛城は大ピンチの場面でも自然に笑える人なんだ。


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posted by コーチ at 23:34| Comment(2) | TrackBack(3) | □ 葛城 育郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
第一戦では、両監督の采配の差を感じたんですが、鑑識眼のない私ですから、実はそんなものじゃないかもしれません。
本当はどっちも先の先まで考えて采配している…勝負だからどちらかに軍配が上がるのは当然としても。

コーチさんの文章を読んで試合を思い起こしていると、すごいなあと思わずにいられません。

去年までと違い今年の巨人は本気で怖い。今日はとうとう1点差で球児が出ることになったし、「球児だって完全無欠じゃない。打たれるかも、今度こそHR打たれるかも」と思って胃が痛くなりました。この3連戦選手の体がもっても私の胃がもちません(笑)。ど素人だから、ピッチャーが想定内でボール球投げてもひやっとするし、「大丈夫、バッテリーは安定してる。抑えられる」という場面でもそうとはわからず気をもみ続けてしまいます。

ところで、今日のような文章も大好きなんですが…9/5の
「上園、絶対勝ち星つけてやるからな」
の言葉にも、「天王山」の
「こういう試合で球児は打たれない。
球児は絶対に打たれないんだ。」
にも、感動して泣きそうになりましたけど…コーチと先生のかけあいも大好きなんです(笑)。楽しみに待ってます。
でも、CSまでなんだかものすごく緊迫してきて、気軽にわあわあ言いながら試合観られる空気じゃなくなってきたような気もしますが…。
Posted by 南河内郎女 at 2007年09月09日 01:56
>南河内郎女さん

長期ロードお疲れ様でした(笑)

本当にしっかり呼んでいただいてありがとうございます! 率直に嬉しいです◎

会話文の件ですが、ぼくもできれば全部あれで書きたいんですけど、歌とかでも聞いた心地はさらっと良いのによくよく歌詞を読んでみると、むっちゃ凄いこと言ってる!みたいなものに最も惹かれる部分もあるので、自分なりの表現の形といえば、先生とコーチのどうでもいいような話の中にそういうエッセンスを盛り込ませて・・・とか思うんですけど。

問題は・・・時間があまりないこと。です。会話文はどうしても

コーチ 「はい」
コーチ 「ですよね」
コーチ 「確かに」

これがぼくがよく使う三大相槌ですが、リズムを取るためにこういうことを書く必要があるので、物理的に時間がかかるというのもあります。

仕事までの時間と、どこまで寝なくて大丈夫かという体力と、その中で納得いく質のものを出せるか。

その時に、東京ドームの初戦みたいなもの凄いゲームだと、もう半端なく書きたいことがあるので、地の文でいくことが最初から決定されちゃうというのもあります。なので地の文書いてるときは「あ、余裕ないんだな」と思っておいてください(笑)
純粋に『小手先に頼りたくない』というくらい感動した場合もたぶんこっちで書きますが、うん、気分次第というのもあります(笑)

では、また◎
いつもありがとうございます!
Posted by コーチ at 2007年09月09日 15:29
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Tracked: 2007-09-09 00:30

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Tracked: 2007-09-09 09:26