上園。
乱調にて2回投げたところで代打を送られ降板。
ただ、立ち上がりの二人までは良かったのだ。先頭の仁志には、ややとらえられながらも、ピッチャー強襲の当たりを上園自身がグラブに当てて、はじかれた打球がショートの前に飛び、それを鳥谷が落ち着いて処理して1アウト。「強いピッチャーゴロに向かっていってのアウト」これはすでに上園の持ち味ともいえ、先頭打者を打ち取るにあたって、とてもいい打ち取り方ができたのだった。さらに続く石井琢が初球を簡単に打ってくれてファーストゴロ。このままトントンと行くかに思えた。
ベイスターズの打線は好調だった。
前日の神宮では2回までに9点を取って試合を決めている。ただ、その試合で番長を使ってしまっているのでタイガース戦では投げない。前回の甲子園でのノックアウトが番長三浦と大矢監督の胸にいまだ傷跡を残しているからだろうと感じた。
打線に目を戻し、ベイスターズ打線。
『Sランク』の好調は、三番金城、七番内川。
完璧に投げても打たれるかも知れないレベルの好調。東京ドーム三連戦における巨人の阿部がこれに当たった。ちなみに現在のタイガース打線に『S好調』はいない。『S』の時期は一年間でもほとんどない。昨年の4月の浜ちゃんや、今年の春の「狩野がデビューしたての頃」みたいな「もの凄く打ちそうな雰囲気」という時が『Sランク』と捉ええてよい好調なのだと思っている。それがオーダーの中に二人いる。勢いで言えば巨人打線よりも怖い打線なのだった。ただ、タイガース打線現在ほとんどみんな『A好調』。ベイスターズは出てくる投手が当然ジャイアンツよりも弱い。だからタイガースが打ち勝つ可能性もしっかりあるゲーム。
上園、野口のバッテリーの初回。
『S好調』の3番金城と対戦していた。カウント2−1と追い込んでから、十分にコントロールされた低目のフォークと、高目のストレートを『打者優位』の雰囲気でファールされる。この時点でストレートが走っていなかったのだろう。その両方の球をファールされて野口―上園が選択したボールはカーブ。「上園といえば、フォークとストレート」そのイメージを使った裏をかいた配球だった。しかし、そのカーブが甘く入り、『S好調』金城にライト前に運ばれる。完璧な当たりのヒットだった。
2アウトランナー1塁で4番の村田。上園としては長打だけは避けたい場面だった。初球インコースにストレートが外れてボール。二球目外にストレートが外れて、カウント0−2。
ここで村田は『四番』という仕事をする。村田の打った打球はまさに『四番』の打球だった。
カウント0−2からの三球目、外のストレート。やや高かったが、村田はそれを強引に引っ張りこんで左中間を深々と破って見せた。「外のストレートを引っ張られて左中間に打たれる」ぼくも少し投手経験があるが、これは非常にショックな打たれ方だ。「オレ、ダメなのかな?」投手に対して、自身を卑屈な存在に感じさせてしまうような、破壊力抜群の打撃なのだ。村田は「先制点以上のもの」を上園から奪い取る。
三番の金城が「打ちやすくして」出塁し、
四番の村田が「打つ」。
さらにその「打ちやすくする」と「打つ」の質の高さが半端じゃなかった。2アウトランナーなしから、金城、村田の二人に完全に崩壊させられてしまう。
もう、その後はストライクが入らない。
ストレートはほぼ高目に浮いていく。フォークボールも決まらない。
佐伯、吉村を歩かせて満塁。
ここで、もう一人の『S好調』内川。外の真っ直ぐを簡単にライト前に運ばれる。しかし、二塁ランナーの佐伯がホームに帰ってこず、タイガースに置き換えてみれば、林クンがセカンドランナーで矢野のライト前ヒット。林クン絶対回ってるなぁ。と少しだけ優位性のある気持ちを持てた場面だった。
ダメになりそうな気持ちを奮い立たせて投げる上園。頑張れ。なんとか三振に取り。5点くらい取られたかと思った印象だったが、2失点で切り抜ける。金城に完璧に打たれ、その後の村田の一撃でそうとうダメージを負ったことを考えると2失点はよく頑張った。
2回の上園。
前のイニングを2失点で切り抜けるとともに、8番の相川でチェンジにしたため、9番のマッドホワイトから。さらに2回の表に自身がタイムリーヒットを放ち、浜中のタイムリーで逆転したわけで、どう見ても上園に流れが来ていた。
流れに乗って上園。マッドホワイトは三振。そして仁志を高目ストレートでキャッチャーフライという最高の形でアウトにする。自分のストレートにもう一度自信が持てるきっかけになるような、そんなアウトに見えた。
ここで石井琢を抑え三者凡退で乗り切れば、もっと違ったゲームになっていたのだろう。
しかし、天は上園に試練を与える。
高目のストレート詰まらせた当たりだったが、ショートとセンターの間にフラフラと上がるヒット。アンラッキーだった。
そして、1回の悪夢が甦る。金城、村田、再び。
これが連載ものの野球漫画だったら、最後のコマで金城と村田がネクストバッターズサークル付近でニヤッとほほえんだシーンとかで次週に続くような、そんな存在感。「どうなるタイガース、頑張れ上園投手への応援のメッセージはこちらまで」と紙面の隅に書いてあるようなそんな場面。
闘え、上園。ここを乗り越えて見せろ、と。ぼくはテレビの前で。
上園vs金城
初球、高めに大きく外れるボール。上園は力んでいた。弱くなりそうな自分と闘っていた。もう、それでいい。それでいいから強く投げてくれ。祈るような気持ちだった。
2球目。高目のストレート。これを金城が完璧にとらえるも、一塁側のスタンドにファール。圧倒的に金城の方に余裕がありそれをまざまざと見せ付けられるファールだった。
3球目はインコースにフォーク。外れてボール。あのファールを打たれれば、ストレートではカウントを取りにいけない。
4球目。苦し紛れにフォークボール。いい高さから落ちるも、金城にさも当然のごとく見送られ、上園さらに追い込まれる。投げる球がない。
5球目。野口がジャンプして捕球するほど外れた高めのボール。
フォアボール。強気の投球が心情の上園。もちろん本人もそのつもりで投げていただろうが、気持ちのおさまりどころがない。それほど圧倒的な金城の存在感。
そして、1回に心をズタズタに引き裂かれた、4番村田と相対する。
上園vs村田
初球。それでも上園は逃げようとはしなかった。渾身の力を振って腕を振り、この日最も鋭い落ち方を見せたフォークボールで空振り。ストライクを先行させる
2球目。3球目。インコースでファールを打たせたかったストレートがともに高目にはずれてカウント1−2。上園はよく向かって投げていっていた。ところが村田がこれをまたさも当然のように見送る。不動の状態で上園を追い込む。ハマの四番打者村田。
4球目。1−2という苦しいカウント。変化球でストライクを取りにいくも腕が振れない。抜けた球。ボール。
一球一球変化する上園の微妙な心理状態。
「これでは、いけない。強く強く」そう思うことで何が起きるのか。肉体のバランスが崩れるのだ。だけど「強く」と思わなければ、マウンドにいることすらできないような苦境。
5球目。ストレートが高目に大きく外れてフォアボール。
また、満塁になった。
頑張れ、上園。
ことごとく球が浮いていた上園に対して、キャッチャーの野口が印象的だった。ピンチになればなるほど「もっと低く」という捕手がよくみせる動作をしない。上園は「低く投げなきゃ」と思って投げたストレートよりも、思いっきり投げたど真ん中のストレートの方が打ち取れる。野口がそう考えているのだと感じた。
「だから上園、腕を振れ。外れたら全部オレが止めてやる。いいから上園、腕を振れ」
野口の無言のメッセージが上園に届いたか。
2アウト満塁バッターは佐伯。
初球真っ直ぐがインコース高目のいいコースに決まる。狙っていったコースではなく、いってしまった球だったがそれでいいのだった。二球目はフォークボールがホームベースの随分手前でワンバウンド。これを野口が身を挺して止める。
三球目、低目のストレートもしくはシュートは勢いのない球で際どいコースもボールの判定。カウント1−2。
さぁ、何でストライクを取る。もうフォアボールは出せない。窮地に追い込まれた上園。
「いいから、上園腕を振れ」
カウント1−2から、ストレートだった。
佐伯にすれば狙って振りにいったであろうストレート。コースも甘い。
しかし、佐伯が空振り。
狙って打つストレートは喩え球児の球であっても、なかなか空振りをとれるものではないのだ。昨日の上園のストレートであればなおさら。上園は、腕を振ったのだった。不安や弱さを全部受け止めて、ただただ思い切り腕を振ったのだと思った。ここで腕を触れること。それが上園の「打たれ強さ」。そしてそれを呼ぶ「野口の優しさ」。
2アウト満塁の大ピンチ、結果佐伯はファーストゴロ。林クンと上園のいい連携で、絶体絶命の場面を凌いだ上園はこの回でマウンドを降りた。
あれだけズタズタにされてよく2点でおさめたよ。
それほどに現状のベイスターズの三番四番の存在感は凄まじい。
次回の登板。上園がどんな姿を見せてくれるのか。
一つまた殻を破れる、大きなチャンスがやってきた。
上園が「エース」と呼ばれる日が来たならば、きっとこの日のことを思い出すだろう。そして聞こえてくるのだ。
「いいから上園、腕を振れ」
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