コーチ 「はい」
先生 「明け方、ちょっとギャルっぽい女の子が店の前掃除しててんけど、あれどないしたん?」
コーチ 「あぁ、あれですか。あれは凄く嬉しかったんですよ」
先生 「嬉しいことやったんやな」
コーチ 「はい。あれね、前の日の晩、大雨降って、その子店の前で友達と雨宿りしてたんですよ。まぁ夜中によく来る子なんですけど」
先生 「それで?」
コーチ 「で、『連れの男に迎えに来てもらうし、雨宿りしてていい?』って言うから、『別にええよ』言うて」
先生 「『連れの男に迎えに来てもらう』リアルやなぁ?笑」
コーチ 「でしょ。待ってる間も、携帯電話でゲームしてましたわ(笑)」
先生 「リアル、リアル」
コーチ 「ほんでまぁ、その時にようさん煙草吸ってね、その辺にポイポイ捨ててたんを、明け方にぼくが掃除してたんですよ」
先生 「なるほど」
コーチ 「そしたら、たまたまその時、その子が通りかかってね、『お兄ちゃん、わたしやる』って凄い申し訳なさそうに、ほうきとチリ取りをぼくから奪ってね、掃除し始めたんですわ」
先生 「ふむふむ」
コーチ 「でね、ギャルっぽい女の子らって、昔で言う『ヤンキー』とはまた雰囲気が違うと思うんですけど、その子らってほんまに悪気がないことが多くてね」
先生 「分かる分かる」
コーチ 「ちょっと表現は難しいですけど、煙草一つ取ったら『そこに灰皿あるんやから、そこに捨てたらええやん』って大人は言うでしょうけども、それが難しいまま過ごしてきたから結果ギャルやって夜中にウロウロしてるわけでね、その子らだけの問題やない」
先生 「確かにその通り」
コーチ 「うまく言えないですけど、『煙草を灰皿に捨てる』っていうことと『彼女が彼女として存在する』っていうことは、大きく矛盾してることなのかな、とも思って、別に吸殻捨てていったりすることに腹も立たないんですけど」
先生 「アイデンティティっていうんかな? 大袈裟かも知れんけど、そうじゃないと『在れない』から、そう在っているという、って感じよな」
コーチ 「同じ意見です」
先生 「ほんで掃除し始めてんよな」
コーチ 「そうなんですよ。『ごめんなぁ。ウチら煙草捨てるの癖やねん』言うて、ふつうに謝ってくるから、『いや、別にそれは謝らんくてええけど、次から灰皿に捨ててくれたら嬉しいで』って言うたんですよ」
先生 「そしたら?」
コーチ 「そしたら、『うん、分かった!!』って、自分が捨てたものじゃないもんまで掃除してくれてね」
先生 「むっちゃかわいいやん!」
コーチ 「むっちゃかわいいんですよ。彼氏と何回も分かれて何回もより戻すんですけどね(笑)」
先生 「あるある」
コーチ 「その度、『別れた〜』って言って泣きながら報告来たり、『ヨリ戻った〜』ってむっちゃ笑いながら報告来たり忙しい子なんですけど、正直でかわいい子ですね」
先生 「やけど、正直過ぎてちょっと周りに流されやすいとこあるんよな」
コーチ 「そうなんですよ。この間も水商売始めた雰囲気あったんで、『向いてないからやめとき』って言うたんですよ。水商売自体が悪いことやとは思わないけど、彼女はその仕事をするには『いい子過ぎる』っていうか、そういう風に思って」
先生 「なるほどなぁ」
コーチ 「そしたらそれもこの間、『もう水商売辞めてん。今日、派遣のバイト登録してきた』って報告してくれてそれもむっちゃ嬉しかったですね」
先生 「ええ話やなぁ」
コーチ 「正直、ぼくも何か手ごたえありました。これで良かったんやなぁ、って思えて」
先生 「で、話しながら思ったんやけど、野球の話してええか?」
コーチ 「もちろん」
先生 「昨日の6回、シーツの打席やねんけどな」
コーチ 「赤星デッドボールの後、押し出し二つで逆転する途中ですよね」
先生 「ライト前のポテンヒット。結果的にあれは物凄く大きかった」
コーチ 「確かに」
先生 「で、あのヒットはレフトの方向向いて振ってバットの先っぽに当たってライト前にフラフラっと上がった打球ではなかったよな?」
コーチ 「そうですね。それとは逆の、ライトの方を向いて振ってボールの下をこすってしまったから、ああいう打球になったと思います」
先生 「前さ、シーツが自分で送りバントしに行ったように見えたときに、こんな話したよな」
コーチ 「8月の終わりの甲子園のカープ戦。杉山と黒田で、桜井が黒田を打った試合ですよね」
先生 「そうやった」
コーチ 「ところが」
先生 「シーツが初球のシュートにまんまと詰まってゲッツー」
コーチ 「交流戦までの阪神に戻りかけてました」
先生 「気持ちはあるねん。やけど『絶対打ったる』があまりに先行してしまうと、あんな簡単な配球にまんまとやられてまう」
コーチ 「紙一重なんですけどね」
先生 「シーツに出してほしい根性は赤星とは全く逆でな」
コーチ 「はい」
先生 「あの場面で『外に逃げる球を待つ』という根性や」
コーチ 「スライダーを待ってライトに向かって思いっきり振る。100点が右中間を抜くあたり、打ち損じてもライト前のポテンがあるかもしれない。仮にライトフライやファーストフライでもアニキまでまわる」
先生 「これは結果論やないでな。散々こんなシーン見てきてるわけやから、ダブルプレーを避けるのって消極的なやり方ばっかりやない。スライダー待って思いっきり右向いて打つのは十分に気持ちのある打撃やと思うもん」
コーチ 「それができるはずの選手ですからね」
先生 「赤星が走るまで待ったりとか、そういう気配りまでできる状態やないから、そんなことは言わん。ああいう場面はとにかく右向いて思いっきり振ってほしい」
8月30日 当ブログ記事『桜井を叫べ』より抜粋
先生 「シーツがまさにその打撃をしたと思って、オレはとても感動したんや」
コーチ 「よう分かります」
先生 「シーツの中にな『ランナー一塁でライト前のポテンヒットはアリ』って感覚はないと思うねん」
コーチ 「ないでしょうね」
先生 「でもむっちゃアリなわけやん。その場面でランナーはたいがい赤星。次のバッターはランナー二人おる場面でアニキや」
コーチ 「大チャンス過ぎます」
先生 「それを少し許せてきたんかな、思ってな」
コーチ 「はい」
先生 「さっきの、ギャルの女の子の話やないけど、素直になれたらいいこといっぱいあるって思うもん」
コーチ 「ですね」
先生 「その女の子の話で言うと、コーチがしてきた対応はほんまにええ方向に導いたと思う」
コーチ 「そう言ってもらえたら嬉しいです」
先生 「『叱られたり』『注意されたり』とかではない中で、『この人に悪いことした。嫌われたくない』って思って掃除したんやろから。最高やで」
コーチ 「ちょっと恥ずかしいですけど、そうやとすれば嬉しいです」
先生 「シーツにしてもそうで、なんぼダブルプレー打っても、ベンチは一切エンドランのサインを出そうとせんかった」
コーチ 「ほんま『初球から打て』ばっかりですもんね」
先生 「その中でシーツが『ライトへポテンヒットでもいい』ってメンタルを獲得できたとすれば、これは今日からの大事な大事な6連戦の中で大きな大きな戦力アップや」
コーチ 「まだそれが本物かは分からないですけど、期待できる昨日の打席でした」
先生 「ランナー一塁。右向いて思いっきり振った結果それがダブルプレーになっても全然かまわん」
コーチ 「はい」
先生 「アニキに繋ごうとする意識。それが間違いなく得点に繋がってくるんや」
コーチ 「そうですね。期待しましょう」
先生 「そしたら、今日からの甲子園、阪神タイガースの勝利を願って」
コーチ 「乾杯!!」
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