先生 「たとえばな、宇宙人が近畿地方に襲来してくんねや」
コーチ 「いきなり、何のたとえなんですか? さすがに戸惑います」
先生 「戸惑ってる場合やない。コーチは『宇宙人対策部隊の隊員』や」
コーチ 「だから、何の話なんですか?」
先生 「コーチは、宇宙人に対して『私たちに敵意はありません。友好的な関係を作りましょう。これが大阪名物のたこ焼きです。食後に京都名物の八ツ橋はいかがですか?』って、9人の精鋭部隊で伝える役割なんや」
コーチ 「は、はぁ」
先生 「その時にや」
コーチ 「ええ」
先生 「やっぱり宇宙人にはこちらの真意がなかなか伝わらへん」
コーチ 「そら、そうでしょうね」
先生 「差し出したたこ焼きが兵器やと思われて、逆に攻撃されたりとか、な」
コーチ 「大変です」
先生 「だけども『友好的である』ということを宇宙人に伝えなあかん。先頭から順番に、そいつのアイデアがあかんかったら、次。それもあかんかったら次」
コーチ 「そうですねぇ」
先生 「やけども、もう、どうしたって伝わりそうもないんや」
コーチ 「はい」
先生 「『投げやり』な気持ちになったりな、もう萎えてしもうたり」
コーチ 「なりますよね、そら」
先生 「その時、隊員のうちの誰かがその気持ちに流されてもうたら」
コーチ 「その時点で任務を放棄したも同然ですよね」
先生 「やけど『投げやり』は、人の持つ感情の中でも相当に強いエネルギーを持つもんや」
コーチ 「経験あります」
先生 「『無理かもしれん』『もう適当でええか』『どうせ無理やし』『いや、あかんあかん』『オレ、なんとかしたい』『うん、なんとかしたい』その心の格闘を隊員たちは続ける必要がある。それを続けな近畿地方の平和は守られへん」
コーチ 「確かに」
先生 「それが『10点差付けられてからのイニングで打席に立つということ』や」
コーチ 「やっと、野球の話になった(笑)」
先生 「安心した?」
コーチ 「安心しました」
先生 「絶対に投げやりにだけはなったらあかん」
コーチ 「当たり前のことのようやけど、それはムチャクチャ難しいことですもんね」
先生 「敢えて中盤の大差を付けられた後の局面から話したいんやけどな」
コーチ 「はい」
先生 「大差付けられて、相手はグライシンガー星人や」
コーチ 「宇宙人ちゃいます。アメリカ人です」
先生 「もともと、物凄いいいピッチャーなわけや。しかも調子も悪くない。10点差。正直、まず勝てん。打ち崩すことは、宇宙人と野球拳を楽しむくらいむつかしい」
コーチ 「どんな喩えなんですか(笑)」
先生 「大事なことは結果を先に考えんことや」
コーチ 「そうですね」
先生 「一人一人が、とにかく出塁していようとすること」
コーチ 「その結果、奇跡的な逆転が起きるかもしれない」
先生 「やけど、奇跡はあくまで『奇跡』やから起こそうと思って起こるもんでもない。『投げやり』になりそうな気持ちと必死に格闘して、緩みそうな何かに抵抗し続ける」
コーチ 「5回裏からの5イニング」
先生 「長い長い攻撃やった」
コーチ 「だけども」
先生 「この試合は、それをやり遂げたんや」
コーチ 「やり遂げたからといって『奇跡』に繋がるわけではないですけどね」
先生 「より遂げなかったら『奇跡』は起きん」
コーチ 「よう言われることですけどね、『明日もゲームがあるから、きちんとしとかなあかん』みたいなこと」
先生 「言われるなぁ」
コーチ 「もちろん間違ってはないと思うんですけど、微妙に違う気がするんですよ」
先生 「どういうことや?」
コーチ 「やっぱり大事なことは『現在』やと思うんですよ。『現在10点差で負けてる打席』でする格闘がね、結果的に『明日のゲーム』に繋がっていく。『明日ありき』じゃなくて、やっぱり時間軸に対しては従順に、『現在』を起点として『未来』がある」
先生 「なるほど。よう分かる」
コーチ 「『明日ありき』にしてしまうことは、やっぱり心のどこかに『諦め』を棲まわしてしまうことだと思うんで」
先生 「10点差の打席は、ほんまに様々な邪念との格闘やからな」
コーチ 「よう最後までやり遂げましたよ、ほんま」
先生 「そうやって粘ってると、まぁピッチャー代えてくれたんもあるやろうけども、最終回にその格闘を超えた、何かが変化した打席が訪れたもんな」
コーチ 「ですね」
先生 「邪念の発生しえない打席や」
コーチ 「みんなであのイニング作ったんですよね」
先生 「精神面ではこれ以上ないくらいハードな打席を、グライシンガー相手に送ってた人たちが」
コーチ 「技術面でグライシンガーよりも劣る投手と対面した時に」
先生 「精神面はそのままで、技術面の負荷が軽くなった」
コーチ 「その結果の四連打でした」
先生 「厳しい試合になったけど、ゲーム中に一つの結果が見えたことで、それこそ」
コーチ 「『結果的に』より明日に繋がった」
先生 「グライシンガー続投で、そのまま終わってたとしても」
コーチ 「十分な内容みんな打席を過ごしてましたから」
先生 「心の中に『諦め』を棲まわさなかったことが、より『明日』に繋がる内容でゲームを終われることに繋がったんよな」
コーチ 「そうや思います」
先生 「7点取られた直後の5回裏。関本のセンターライナーがまず良かった」
コーチ 「前の打席で負の流れを作った責任も感じてたんでしょうね」
先生 「いろんな気持ちが交錯する中、それでも己を律しセンターへ打ちに行った見事なスイングやった」
コーチ 「あと、特に目立ったんが林クンでした」
先生 「10点差以降、2打数2安打やもんな。まぁ結果ではないんやけども」
コーチ 「特に、グライシンガーから打った7回のレフト前ヒット。これはムチャクチャ強い気持ちで放ったヒットでしたよね」
先生 「アニキが切り拓いた空気の中ではなかったし」
コーチ 「まったく動いていない空気を、林クンは自分の力だけを信じて突破しました」
先生 「あのヒットは林クンをまた一つ大きく強くしたヒットや」
コーチ 「最終回にタイムリーも打って」
先生 「桜井も連続タイムリーやった」
コーチ 「ここはアニキが繋いだ、よく経験している『アニキが打ちやすくしてくれた場面』ではありましたが」
先生 「二人とも易しい球じゃなかったしな」
コーチ 「吉川が悪かったわけじゃないですよ」
先生 「林クンと桜井の集中力が上回った」
コーチ 「そして『そこで1点取っても…』という場面での」
先生 「アニキの激走」
コーチ 「林クンと桜井があんな顔して打席に立ってなかったら、さすがのアニキも自重した場面やったかも分かりません」
先生 「ノーアウトやし、それでも全くおかしくないところやから」
コーチ 「やけど、林クンと桜井がアニキを走らせた」
先生 「ええ攻撃やったよな、ほんま」
コーチ 「スワローズにしてみたら、このグライシンガーの試合で勝てなかったらもう今シーズン終わりみたいな試合やったんですよね」
先生 「今年は3位に入ればいいけど、それにしてももう後がない」
コーチ 「というゲームで、最後はチームと似たような状況の石川が、そういうピッチングしてきましたから」
先生 「後続が打てなかったんはしゃあない」
コーチ 「野口、藤原、狩野と三者三振でしたけど、非常に内容のいい三振でした」
先生 「最後までしっかりやり遂げたよな」
コーチ 「敗因というか、これはスワローズの勝因と言う方が正確やと思いますけど」
先生 「おう」
コーチ 「まず同点で迎えた2回裏、関本の打席でエンドランを仕掛けてのダブルプレー」
先生 「ノーサインでダブルプレーとは意味合いが違うからな」
コーチ 「チャンスを拡大するための打席やったらあそこはノーサインなんですよね。あそこは絶対に下柳先輩までまわして、3回に鳥谷からスタートするためのエンドランやった」
先生 「併殺だけは絶対に避けたかったからのエンドラン。ならば、窮屈でも一二塁間に向かってゴロを打つ打ち方をせなあかん」
コーチ 「これは関本に限ったことではないと思うんですけどね」
先生 「おう」
コーチ 「少しだけチームに隙があったんやと思います」
先生 「ボテボテのセカンドゴロを打ちに行く気構えみたいな、な」
コーチ 「『ヒットになるかも』じゃエンドランは失敗するんですよ。すでに『打つこと』だけに集中できない状態がエンドランという意味ですから」
先生 「とにかく一二塁間にゴロを転がそうとすること、それが結果的にライト前に抜けるか、変化球やってタイミング崩れたけど、うまくバットの先っぽに引っかかってセンター前に落ちるかみたいな」
コーチ 「結果は後から付いてくるもの。このイメージがエンドランの鉄則です」
先生 「それが、少しだけ曖昧になってたんやろな」
コーチ 「いい当たりだったけど併殺打」
先生 「試合が動いたのは直後やったよな」
コーチ 「3回表、先頭の青木がその隙を大きく広げていくかのようなヒットでした」
先生 「これも遡ると2回の攻撃で宮本が出塁したものをそのまま残しておけたことによって、グライシンガーまでまわったからこその、青木からやもんな」
コーチ 「『2回を9番で終えること』って立ち上がりからガンガン打てた場合を除いては、ほんまに大事なことなんですよね」
先生 「で、青木から始まって、その青木が見事に出塁」
コーチ 「田中がきっちり送ってクリーンアップ」
先生 「ラミレス倒れて、ガイエルのファーストゴロが」
コーチ 「イレギュラーしたんは仕方ないにしても、その後、下柳先輩のベースカバーと関本の送球の呼吸が合わなかったことには、二回裏に見せた『少しの隙』が関係していたと思います」
先生 「下柳先輩は悪い投球やなかったけどな」
コーチ 「一度チグハグになってしまったら、打ち取った当たりがポテンヒットになるんですよね」
先生 「さらにこのイニングもリグスと宮出のポテンヒット以外も宮本と福川がしっかりフォアボールを選んで9番まで回して終わってる」
コーチ 「スワローズの攻め方としては完璧でした」
先生 「タイガースが山本昌を攻略できるときと似てるもんな」
コーチ 「4対1になったところで3回裏、当然下柳先輩からスタートしてしまうわけで」
先生 「この時点でもう、かなり苦しかった」
コーチ 「赤星がフォアボール選んだシーンは素晴らしかったですけどね」
先生 「スワローズの完璧な攻めが上回ったな」
コーチ 「試合が決定した5回表は、ガイエルに微妙なデッドボールの後、リグスをダブルプレーで打ち取ったんですよ」
先生 「赤星が見せた姿勢同様、下柳先輩もほんまに丁寧な投球やった」
コーチ 「ところが、ここで昨日から凄い気迫で向かってくる宮本が」
先生 「打つんよな」
コーチ 「一度広げて付け込んだ相手の隙がふさがりかけた瞬間でした」
先生 「で、もう一度広げたところで、宮出がしっかり乗っていく」
コーチ 「しぶといライト前でした」
先生 「7番の宮出が出塁したことで、下柳先輩に力みが出てしまった」
コーチ 「『8番で切らな、また次の回青木から始まってまう』」
先生 「前後裁断なはずやけど、先のこと考えるほうが無理な話やからな」
コーチ 「微妙に手元が狂って、福川にデッドボール」
先生 「あぁ、また9番までまわってもうた」
コーチ 「チーム全体のその気持ちがグライシンガーの打球を絶妙のセーフティバントのように転がし、あのプレーを呼んだと思います」
先生 「あれよあれよの7失点」
コーチ 「切り拓いた人宮本、打ちやすくした人宮出、流れに乗った人グライシンガー、打った人田中、ラミレス」
先生 「完璧な得点やったな」
コーチ 「殊勲の宮本と、宮本を中心に大きく重圧をかけ続けたスワローズの攻撃でした」
先生 「ただ、や」
コーチ 「はい」
先生 「この状況からタイガース打線は必死になって己との格闘をはじめ、それをやり遂げたわけや」
コーチ 「渡辺、桟原もナイスピッチングでした」
先生 「初戦のタイガース、二戦目のスワローズ。互いにいい勝ち方をして、まさしく五分や」
コーチ 「タイガースが大きな波に乗り切れるのか。スワローズが首の皮一枚踏ん張るのか」
先生 「明日の試合、とても楽しみやな」
コーチ 「今日の後半の打撃を続けてたら、きっといい結果に繋がると思います」
先生 「せやな」
コーチ 「グライシンガーよりもいいピッチャーはいませんし」
先生 「なんとか打って勝ちたいな!」
コーチ 「実はJFK休めてますし(笑)」
先生 「ボーグルソンがナゴヤで見せたような投球して、6回まで抑えて、久保田とジェフと球児が投げる」
コーチ 「打つほうは、今日みたいな気持ちでおったら点取れます」
先生 「負ける気がしない!」
コーチ 「では景気づけに」
先生 「打倒、宮本スワローズ!!」
コーチ 「乾杯!!」
先生 「アニキへの恩返しはまだまだこれからやで〜!!」
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